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今、えのすいでは海洋研究開発機構と深海生物の長期飼育に関する共同研究をおこなっていて、深海生物の中でも特に深海化学合成生態系の生物の長期展示飼育に力を入れています。今回はその深海化学合成生態系についてお話したいと思います。
地球は2階建て
私は今、飛行機に乗って10,000m上空から海や山や谷を見ています。海の上に浮いている船をそのままにおいて、地球上から海水を抜いて深海底が見えるようにすると、飛行機からと同じように、船の上から海底の山や谷などの光景を見ることができるでしょう。そう思うと、地球は2階建てになっていて、私たちは2階の住人なんだなと思います。
私たちはこの1階に行くことが非常に難しく、この世界は私たちが入ることを拒んできました。私たちはフリーダイビングで150m程度、飽和潜水でも500mまで行くことはできますが、それ以上はなかなか行くことのできない神秘の世界である深海なのです。
深海は餌が少ない?
私たちの住む陸上では、太陽の光がさんさんと降りそそぎ、植物が光合成をして栄養分をどんどん作ってくれるので、それを食べてたくさんの生物が活かされています。しかし、深海には太陽の光が届かないために、光合成して栄養を作る植物がいません。また、深海には沢山の生物がいますが、海の99%は深海であるため、あまりにも広い空間に生物がいるので、餌に出会う確立が少なくなってしまいます。深海の生物は、表層で植物プランクトンなどに作られた栄養分が降ってくるのを待つか、それを食べる生物を待ち伏せして食べるしかないのです。そのため、深海の生物は頭を上にして立って泳ぐ生物も多く見られ、獲物を見つけたら逃さないように顎を大きく発達させているものや発光することによって自分の影を消してしまう生物も多くなります。深海底では、生き物が死んで横たわるとすぐに沢山の生物が集まり、それをむさぼり食ってしまいます。
 
深海のオアシス
今からちょうど30年前に生物学の常識を覆す20世記最大の発見の1つといわれるものがガラパゴス沖での潜水船による調査で発見されました。それは深海の中でもとくに際立って神秘的な場所で、300度以上の真っ黒な熱水が勢い良く噴き出る周りに群がる生物群集なのでした。
この発見以来、地球のプレートが生まれる場所には熱水噴出域化学合成生態系が発見され、地球のプレートが沈んで消えてゆく場所には冷湧水域化学合成生態系が発見されてきました。
この熱水や冷湧水の周りは熱帯雨林に匹敵するほどの生物量があり、非常に豊かな環境です。光のない深海底にどうしてこのような豊かな生態系が作られるのでしょう?その秘密は海底から噴き出したり、わき出したりする硫化水素やメタンをエネルギー源にして栄養分を作りだす化学合成細菌がその豊かな生態系を維持していたのです。
 
深海共生系
大型の生物も全て化学合成細菌の恩恵を受けています。その代表はハオリムシです。ハオリムシはゴカイに近い仲間ですが、口も消化管もありません。何も食べないのです。それなのになぜ生きることができるのでしょう?ハオリムシはその体内の大部分の細胞内に化学合成細菌が共生していて、それらが硫化水素からエネルギーを取り出し、二酸化炭素から栄養分を作ってくれるのです。
これは植物の細胞内にある葉緑体が光のエネルギーを利用して、二酸化炭素から栄養分を作ってくれるのに似ています。光のない深海では、化学合成細菌が葉緑体の替わりとなって栄養分を作っているのです。そのほか、シロウリガイやシンカイヒバリガイなどでは鰓の細胞内に化学合成細菌が共生しています。
 
深海研究の面白さ
細胞内にある葉緑体やミトコンドリアもそれぞれがDNAを持っていて自己増殖します。これは葉緑体もミトコンドリアも最初は別々の生物で、もともと葉緑体は藍藻類、ミトコンドリアは好気性細菌でそれらが進化の過程で1つの細胞の中に共生するようになって、いまの私たちや植物の細胞ができてきたと考えられています。ハオリムシやシロウリガイの細胞への共生細菌の共生開始の過程を追跡できれば、もしかしたら、細胞の進化の過程を目の前で見ることができ、それをはっきりと証明できるかもしれません。また、原始の地球は高温で、酸素が無く、二酸化炭素やメタン、硫化水素、アンモニアなど簡単な化合物があるだけだとかんがえられています。その環境がどこにあるかというと深海の熱水噴出口なのです。マグマに熱せられて吹き出す熱水は300〜400度、そのなかには二酸化炭素、メタンや硫化水素など、そのほか沢山の物質が含まれています。さらには圧力が高いので物質の化学反応も進みやすくなります。こういうわけで、深海熱水噴出口では原始の生物がいて、もしかしたらいまだに新しい生物が生まれているかもしれないのです。
近いようでなかなかいくことのできない神秘の世界〜深海〜そこにはまだまだ謎とロマンに満ちあふれて、科学の宝の山になっています。
(展示飼育グループ 三宅 裕志)
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